こんにちは。「ことさきく」運営スタッフの髙橋です。
こちらの「つぶやき」コーナーでは「ことさきく」運営スタッフ――全員成瀬先生の弟子です――が先生の難しい理論をわかりやすく、それぞれの感想を交えながら解説しています。
前回の「つぶやき」の原稿を書きながら、なぜ成瀬先生の理論が「こころと言葉」なのか、少しおわかりいただけたかと思います。私も書きながら「そうか」と膝を打ったところです。
今回は、「こころ の翻訳ってこういうことかな」と私が思っているものをご紹介します。それは井伏鱒二の「訳詩」です。漢詩を井伏鱒二が自分のリズムで作り直したものです。翻訳というより翻案という方が当てはまるようですが、私の好きな作品です。
勧 酒 于武陵
勧君金屈巵
滿酌不須辞
花發多風雨
人生足別離
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
この転句と結句は有名ですが、漢詩の訳とはこれを読むまで知りませんでした。
照鏡見白髪 張九齢
宿昔青雲志
蹉跎白髪年
誰知明鏡裏
形影自相憐
シユツセシヨウト思ウテヰタニ
ドウカスル間ニトシバカリヨル
ヒトリカガミニウチヨリミレバ
皺ノヨツタヲアハレムバカリ
元の漢詩のほうは年老いた自分を哀れむ悲しみの方が強く感じられるのですが
井伏訳のほうは悟りと滑稽さが感じられます。
このくらい客観的に自分を見つめられた方が長生きできそう。
小学生のとき「ドリトル先生」シリーズを堪能して以来、井伏鱒二は好きな作家です。
「オシツオサレツ」という胴体の前後に頭がある動物の名前に感心したことを今でも覚えています。原文は Pushmi-pullyu です。
以上、今日のつぶやきでした。
(運営スタッフ:髙橋)
*成瀬先生が同じ詩を引用した文章を書いていましたので、相互でそちらもお楽しみください。(運営スタッフ:瀧澤)
