英語音声情報の大部分は、外界から直接に得たものではなく、脳内であとから自分が自発的に生み出したもの(1)

池谷裕二さんという脳科学者の考えによると、私たちが理解している情報の大部分は、外界から直接的に得たものではなく、脳内であとから個々人が自分で生み出したものである。

この点に関して、まず視覚情報に関する池谷さんの意見を聞いてみよう。以下、『進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 』(池谷裕二、ブルーバックス、講談社)からの抜粋である。

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池谷
たとえば、いま僕の前に小机があるよね。これを30センチメートルほど手前に引いて動かしてみよう。僕らは、これが先ほどと同じ机だということが認識できるけど、網膜に映った情報だけで視覚が生み出されたとしたら、少し位置がずれただけでも、同じ机だとわからなくなってしまう。おそらく、脳の中では、デジカメの映像とはまったく違う処理が行われているような気がしてならないんだ。その1つは何かというと、トップダウン処理なんだよね。

視覚の例でいえば、ボトムアップというのは目の網膜から伝わってくる「外の世界に冠する情報」の処理で、トップダウンというのは脳の中で発生している「内なる情報」の処理。

強い証拠があるわけではないんだけれど、僕は、トップダウン処理を担当しているのは自発行動だという仮説を立てている。位置や光の当たり方が変わっても机を机と認識できるためには、トップダウン処理が働いて「これは机なんだ」と信じ込ませるような強力な機構がないと、机を机とする安定した認識は生まれない気がする。机の存在を認識するためには、あまりにも外界からの情報が少ないし、そもそも外界は変化しやすいからね。

学生U
記憶と、記憶の中にあるカテゴリー化ですね。

池谷
そうそう。机とはかくあるものという情報が記憶の中に保管されていて、網膜からあがってきたわずかな情報を手がかりにして「机」だと思い込むための機構が作動する。

だって、視神経は100万本しかないわけだ。僕たちの目は、本来ならば、100万画素のデジタルカメラ程度の解像度しかない。この程度の画素数では、直線だってギザギザの線にしか見えないはずなんだ。でも僕らには机の輪郭がギザギザに見えたりしないよね。これは、脳の中で、不足した情報が充填されて、直線であるかのように思い込まされているだけだと思う。こんなことは、コンピュータのようなボトムアップ処理だけでは決してできない。

おそらく、脳の大部分の情報は、トップダウン方式によって埋め込まれたものだろうね。視覚の話に限れば、3%しかボトムアップがないから、残り、97%が埋め込み処理だ。こうしたことを考えていくと、自発活動は、単なる無秩序な脳のノイズじゃない。

『進化しすぎた脳』 池谷裕二 ブルーバックス pp352-4


池谷さんの解説によると、私たちの脳の中にある情報の大部分は、外界から直接に得たものではなく、脳の中であとから自分で自発的に生み出したものである。

視覚の場合、なんと97%もの情報が、外界からではなく、脳内で自分が生み出した情報である。

そうした「内なる処理」が行われることで、直線がギザギザではなく直線として見える。

池谷さんは、この脳内の情報処理のことを「トップダウン処理」と呼び、AI以前の従来のコンピュータのような情報処理を「ボトムアップ処理」と呼んでいる。

(ことさきく|「大きな日本人」を育てる!より)

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